新たなブレヒト・オペラ?
ブレヒトのオペラ理論および《マハゴニー市の興亡》における異他的なもの
Eine neue brechtsche Oper?
Das Fremde in Brechts Operntheorie und Aufstieg und Fall der Stadt Mahagonny
科研プロジェクト「越境文化演劇研究――異他の視点からの演劇文化論」
開催日
2018年1月26日(金)
会場
慶應義塾大学三田キャンパス 南館4階会議室
2018年1月26日に三田キャンパスにて、ハレ歌劇場の専属演出家およびチーフ・ドラマトゥルクを務めるミヒャエル・フォン・ツア・ミューレン氏によるワークショップが行われました。
氏がこれまで手がけてきたブレヒトのオペラ作品の演出実践について、映像を交えながらお話いただきました。まず、いまや教条化し、ブレヒト演劇が当初持っていた起爆力を失ってしまったブレヒト演出をどうすれば更新できるか、ブレヒトのオペラの政治性は今日ではどう演出されうるか、という根本的な問いが掲げられます。
この問いに対して、フォン・ツア・ミューレン氏は①作品を取り巻く社会状況の変化についての再考、②テクストの再構成あるいは発話者と台詞の分離、③作品のアクチュアル化ではなくリフレーミング、すなわち、ブレヒトの作品を現代の視点から捉え直すのではなく、全く別の枠組みのなかにブレヒト作品を置換する手法、という三つのアプローチを提示します。
これらのアプローチをどのように具体化したかが、《屠殺場の聖ヨハンナ》、《ガリレイの生涯》、《マハゴニー市の興亡》の実際の上演映像をもとに詳しく解説されました。
例えば《マハゴニー市の興亡》には、資本主義社会に生きる人間の受難劇と崩壊したユートピアへの哀悼劇というフレームが与えられます。
舞台装置はフランクフルトのパウルス教会と一目で認識できるものとなっています。
この教会は、1848年のフランクフルト国民議会が開催された場所であり、現在はドイツ出版協会平和賞の授与式の開催場所としてドイツ社会で重要な意味をもつ場所です。
この場所が枠組みとなることで、ブレヒトのオペラに新たなコンテクストが付与されます。
質疑応答では、ブレヒト作品の政治性についての議論が展開されました。
参加者の一人からは、ブレヒト作品自体に内在する政治性の他に、「知覚の政治学」という視点がブレヒト作品の上演を考える上で一つの重要な手がかりとなるのではないかとの意見が出されました。
また、現代においてブレヒト作品を上演することの意義についても活発な議論が行われました。
報告:北川





